「二人と一匹が暮らすには十分なスペース」 家族の人数と生活スタイルに合わせた平屋住宅

「小林さん(親方:小林 益裕)とは同級生で知り合いなんです。以前も、20年ぐらい前になりますか…母屋(おもや)をやってもらったんです。その時しっかりやっていただいたので、今回もお願いしました。」

今回お話を聞かせてくださったのは、掛川市で娘さんと二人暮らしをしている田辺さん。
真冬だというのにストーブも暖房もいらない、あたたかな太陽の光が差し込むリビングで、お茶菓子をいただきながらお話をお聞きした。

(聞き手:コバヤシ建築 太田慎吾)

旧家屋の柱・梁をそのまま活かし、古民家風のアレンジに。新しくもおばあちゃんのぬくもりを感じられる家にリノベーション

田辺さん
「もともとここに六畳二間の平屋の住まいが建ってましてね。当時、小林さんが『この建物はまだ新しいから壊すのはもったいないよ。』とおっしゃってくださって、その古い建物を横へ動かして、広く空いたところへ新しい母屋(おもや)を建ったんです。それからしばらくはその移築した建物を脇屋倉庫として使っていました。」


母屋の横へ移築した旧住居は無人の倉庫として長い間使われた。(リノベーション前の画像)

今現在田辺さん親娘が暮らすようになった平屋住宅(小屋裏物置付き 注:法規的には2階建)は、もともと田辺さんの親御さんが暮らしていた思い出の詰まっている建物だった。

田辺さん
「今回、仕事の都合で離れて住んでいた息子家族が掛川に戻れることになってどうしようかとコバヤシ建築さんへ相談しました。息子たちには母屋に入ってもらうことにして、私たちはこの古い建物を再利用できるかなって。」

太田
「依頼を受けてまず考えたのは既存の構造体の耐震性能はどうかでした。30年以上前の古い建築基準で建てられているので、おそらく耐震補強が必要だろうと。その構造的な制限と法的制限の中でお客様が要望する間取りと出来栄えを保証できるのか設計と工事では苦労しましたが、結果的に成功してホッとしたというのが正直なところです。公的な耐震補強の補助金制度を使えたので、耐震性能をテコ入れするための予算が補充できたのは助かりました。」


綿密な調査を重ね、適切な耐震補強を行う。公的補助金制度を使えるのはありがたい。

田辺さん
「それで部分的に活かすことになりました。古い柱は活かしたんですよね。」

太田
「そうですね、最初はこちらで作成した間取りのプランも提出したんですが、田辺さんには明確な住まいのイメージがおありでした。だから最終的に出来上がった間取りは基本的にお施主さんの考えたものです。大変だったのは平屋の建物に家財道具を収納できるよう2階へ固定階段で日常的に登れる小屋を増築してほしいという要望でした。建築費がアップしないように元ある屋根をできるだけ残したいという設計施工上のやりくりは大変だった。
見せ場としては既存の柱と梁がきれいな状態だったので、空間に変化をつけて、古民家風にアレンジしましょうということになりました。玄関、トイレ、洗面脱衣、浴室は今回新しく増築した部分です。」


構造上の制限を一つ一つクリアしながら工事は進められた。

田辺さん(娘さん)
「本当にきれいにやっていただいて。親娘二人で暮らすには十分です。兄たち家族がこちらに来て同じ母家に二世帯同居するという話も出たんですが、一つ屋根の下というものいろいろと大変なので…。それでそういう思いもあってコバヤシさんに相談したところ、古い建物の構造を活かしてリメイクするという話になったんです。」

太田
「まさに今時の言葉でいう『リノベーション』でしたね。」

田辺さん
「結構迷ったんです。古い建物を壊して更地にしてから建て替えた方が楽だという話も途中に出たりしました。手間はかかりましたけど、昔からあるものをなるべく活かしたかったので、その希望が叶いました。普通だったら壊しちゃったほうが早いし楽だけど、そういう私の思いを形にしていただきました。大工さんがいる工務店ならではですね。本当にありがたいです。」

太田
「昔のものを残したいという強い思いがあったんですよね。」

田辺さん
「ええ。やっぱりおばあちゃんがいた家ですから、少しでも活かして生き返ればいいなと思いました。私、昔の手作りのものが大好きなんです。静岡の家具屋さんが知り合いなんですが、ここにある古いタンスもケヤキの無垢ですごく気に入ってるものなの。ここは新しい建物だけど、梁が残り、昔の家具が残り、いい感じになって本当に嬉しい。」

場合によっては古い建物を取り壊し、まっさらな状態から新築した方が早く、自由度の高い家ができる。
田辺邸では施主である田辺さんの思いを第一に考え、工期はある程度長引いても、旧宅のよいところを活かし古民家風のデザインに仕上げた。


天井を見上げると、旧家の梁が今も家族を見守っている。リノベーションの前は屋根裏に隠されていた構造梁を空間デザインに活かす。

隣接する息子さん家族との距離感も適度にいい感じ。
登校前・下校後にお孫さんが顔を出してくれるのが楽しみのひとつ

太田
「実際、住み始めてみていかがですか?」

田辺さん
「狭いのが少しだけ不便だけど、二人と一匹なのでこのくらいで十分です(笑)」

田辺邸は正しくは田辺さんと娘さん、ワンちゃんの“二人と一匹暮らし”である。

田辺さん(娘さん)
「前は部屋が7つもあったので、掃除が大変だったんです。今はこじんまりしていて掃除は楽だし、あったかいし、洗濯物はすぐ干せるし、コバヤシさんに作ってもらって本当によかったです。隣が茶畑なので、窓から緑が見えるし、陽が入るし、天井が高いので解放感もあります。」

田辺さん
「孫が毎日学校に行く前に『おばあちゃん、おはよう』って顔を出してくれるんです。犬に会いに来るだけで、私はついでかもしれませんけどね(笑)親が共働きなので、学校から帰ってくると、また『ただいま』って来てくれます。親が仕事で遅いときには、ここで一緒にごはんを食べることもあります。楽しい思いをさせてもらっています。」

田辺さん(娘さん)
「同じ敷地の中だけど、同居でもないし、距離は近いけどキッチンやお風呂など水回りは別だし、そのあたりは暮らしやすいですね。(笑)」

田辺さん
「昔は大勢で同居していました。今は別々だけど、何かあればお互い助け合える関係なので、気持ち的にも楽ですね。お勤めをしているから、自分の時間はゆっくりしたいでしょうし、生活のペースも好みも違いますからね。今はとてもいい感じです。」


西隣には息子さんご家族が住んでいる。すぐ隣なのでお互い安心して暮らせるが、それぞれのプライベート空間はきちんと保っているのが魅力だ。春先の花粉対策に物干し場は気密性の高いサンルームに。

狭いながらも収納スペースをうまく設け、大切なものはとっておけるよう配慮

太田
「家づくりでこだわったポイントは他にもありますか?」

田辺さん(娘さん)
「広い家から小さな家に移りますから、収納スペースにはこだわりました。昔のものもかなりあったので、リサイクルに回したのもたくさんあります。」

田辺さん
「私がなかなか捨てられなくてね~(笑)82歳でしょう。頭が昔の頭だから、何でももったいなく感じちゃって捨てられないんです。」

田辺さん(娘さん)
「二階を建て増して収納スペースにしてもらいました。はしごで上るような屋根裏の収納だと上り下りが大変なので、ちゃんとした階段をつけて。収納用の棚も作ってもらいました。小物が片付くのでとても便利です。」

田辺さん(娘さん)
「古いタンスも捨てられなくて(笑)寝室の横へタンス置き場も作ってもらいました。」

田辺さん(娘さん)
「思い切って居室数を減らして、そうした収納のスペースを考えてもらったんです。」

田辺さん
「よく考えて作っていただきました。私がいなくなったら、古いものは全部片づけてもらえばいいかなと(笑)」

田辺さん(娘さん)
「あと、車を置く台数も増えたので、駐車スペースを広くして、庭の部分は小さくしました。草取りが楽になりましたね(笑)」


不要な植木は思い切って処分。土留めに天然石をうまく使うとうつろいが良くなる。

太田
「建物の工事だけでは住まいづくりは完結しませんからね。そのあたりは設計の早い段階から積極的に提案させて頂きました。」


田辺さんの後ろに見えるのはこの家を建てる前から大切にされている家具。古民家風の家のデザインに見事マッチしている

夏はオール電化で快適に、冬は断熱性能の高い作りで暖かく…
寝室の明るさの秘密は、ブラインド付きの天窓

冒頭でもお伝えしているとおり、お話をお聞かせいただいているこのリビングは、真冬(12月)だというのにとても暖かい。
しかし、周りを見渡してもストーブも、暖房も、スイッチが切られている。

暖かさの秘密は、母屋に負けない断熱性能にあった。

太田
「そういえば今は12月ですが、部屋の中がとても暖かで良かったです!古い建物のリフォームで断熱性能を上げるのは大変ですから。」

田辺さん
「工事が去年の12月から始まって、住みはじめたのが4月ですから、初めての冬なんです。工事をしている頃大工さんたちが『この家は暖かくていいね』とおっしゃっていたけれど、本当に暖かいです。」

太田
「暖房はつけてますか?」

田辺さん
「今はつけていませんね。晴れて日差しが入れば何もつけなくても本当に暖かいんです。」

太田
「最新の高性能グラスウール系断熱材で建物をすっぽり覆ってますし、サッシの部分にはRow-eのペアガラス※も使っているので、母屋に比べたらこちらの方がかなり断熱性能は高いと思います。」


※2枚の板ガラスを使用して作られた断熱サッシ。室内の熱が外部に逃げにくいようガラスの表面に特殊なコーティングがされている。

太田
「逆に夏場はどうでしたか?」

田辺さん
「クーラーの効きはいいですね。それとオール電化にしてIH調理器に変えたら夏の調理が前ほど暑くないんです。直火を使わないとこんなに違うんだってびっくりしました。」

太田
「それから寝室ですが、奥まった部屋でも付けた天窓から太陽の光がほどよく差し込んでいるようで安心しました。」


寝室の天窓。朝になると光が差し込んできて、さわやかな朝を迎えられる(きっと…!)

田辺さん
「明るいから照明いらないです。調光できるように電動ブラインドをつけてもらいました。」

太田
「天窓は玄関ホールと寝室の2ヶ所につけましたが玄関ホールは和風テーストなので、光道に樹脂製の障子をはめました。光がやわらかくなります。こうするとナチュラルな明るさになりますよ。」


こちらは玄関の天窓。障子風の天窓になっているため、やわらかい光が差し込むのが特徴

この後中二階の収納スペースを見せていただいた。
とっておきたいけど普段使うことのないものは、この収納スペースにきれいに整頓してしまわれていた。


部屋の天井は楽に立って歩けるように、また階段の昇り降りは最小限の高さに。法律的には2階建てになる。(工事完了時の画像)

「散らかってますけど…」と言いながら見せてくださった中二階の収納スペースは段や棚をうまく使い有効活用されていた。
限られたスペースをうまく生かし、広すぎず、狭すぎず、ゆったりとした空間。これからも快適な生活を送ってほしい。

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